欧州議会選挙はEUの転機か?
――投票所の扉を開けた瞬間、ヨーロッパの空気が少し違って見えた
「EUの選挙って、結局、何が変わるんだろう」
投票所へ向かう途中、私はそんなことを考えていた。
EUの旗はいたるところにある。青地に12個の星。役所にも、駅にも、街角にもある。
けれど、それが「自分の生活を決めている政治」だと感じる瞬間は、正直それほど多くない。
欧州議会選挙も、どこか遠い出来事に思えていた。
ところが、投票所の前に立った瞬間、その感覚が少し変わった。
そこには、EUという巨大な仕組みの中で暮らす人々が、それぞれの不満や期待を抱えて並んでいた。
若い人。
年配の人。
家族連れ。
仕事へ向かう途中のような人。
「ヨーロッパ」という一つの言葉では括れない人々が、同じ一票を持っている。
私はその光景を見ながら、ふと思った。
これはEUに対する信任投票なのではないか。
そして同時に、
EUに対する不満の投票でもあるのではないか。
■ 「ヨーロッパ」を選ぶ選挙なのに、話題は国の暮らしだった
欧州議会選挙はEUの議員を選ぶ。
しかし、街で聞こえてくる政治の言葉は、必ずしも「EU」だけではない。
物価。
住宅。
移民。
エネルギー価格。
農業。
治安。
ウクライナ戦争。
気候変動。
そして、自分たちの国の政治。
そこが、この選挙の面白いところだった。
EUという巨大な政治空間で行われる選挙なのに、有権者の頭の中には、それぞれの国の日常がある。
つまり、
「ヨーロッパの未来」を選びながら、「自分の国への不満」も一緒に投票している。
そんな二重構造が見えてくる。
2024年の欧州議会選挙では、EU全体の投票率は50.74%。
半分を少し超える程度だ。
しかし国による差は驚くほど大きい。
ドイツは64.74%だった一方、クロアチアは21.35%、ブルガリアは33.78%だった。
「ヨーロッパ人」という一つの有権者像など、最初から存在しないのかもしれない。
■ 開票結果を見て、最初に感じたのは「EUが崩れた」ではなかった
選挙結果が出始める。
ニュース画面に、国ごとの数字が次々と表示されていく。
フランス。
ドイツ。
イタリア。
スペイン。
ポーランド。
数字が変わるたび、ヨーロッパの地図の色も変わっていく。
特に目を引いたのはフランスだった。
フランスでは国民連合(RN)が31.37%を獲得し、マクロン大統領率いる陣営の14.60%を大きく上回った。
その直後、マクロン大統領は国民議会の解散を決めた。
欧州議会選挙が、一国の国内政治まで揺さぶった瞬間だった。
私は画面を見ながら、
「EUの選挙なのに、フランス政治そのものが動いている」
という奇妙な感覚になった。
しかし、ここで「EUが極右に乗っ取られた」と結論づけるのも早い。
欧州議会の議席を見ると、最大勢力は依然として欧州人民党(EPP)で188議席。
社会民主進歩同盟(S&D)が136議席で続く。
一方、愛国者(PfE)は84議席、欧州保守改革グループ(ECR)は78議席を得た。
つまり、
中道派は崩壊していない。
しかし、
右派・ポピュリスト勢力の存在感は明らかに増した。
この二つが同時に起きた選挙だった。
■ ドイツで感じた「静かな変化」
ドイツの結果にも目が止まった。
CDU/CSUが30%で首位。
しかし、そのすぐ下にはAfDが15.9%で入った。
SPDは13.9%。
緑の党は11.9%だった。
数字だけを見れば、一つの政党が圧倒的に勝った選挙ではない。
むしろ私が怖いと思ったのは、別の部分だった。
「極端な政党が突然、社会の外側から現れた」
という感じではない。
すでに普通の政治の風景の中に存在している。
それが、2024年の欧州議会選挙から受けた大きな印象だった。
ヨーロッパの政治は、突然右へ倒れたわけではない。
少しずつ、少しずつ、重心が移動している。
■ 「EU反対」だけでは説明できない
ここで私は、もう一つ重要なことに気づいた。
右派政党への投票を、単純に「EU嫌い」と考えてはいけない。
移民問題への不満。
生活費への不満。
環境政策への反発。
農家の負担。
安全保障への不安。
そして、「自分たちのことを政治家は理解しているのか」という不信。
これらが重なっている。
つまり、有権者が投票箱に入れたものは、単純な「EU反対票」ではない。
むしろ、
「今のヨーロッパの進み方を少し変えてほしい」
という意思表示なのかもしれない。
EUの政策そのものに反対する人もいる。
しかし、EUを壊したいわけではなく、
「もっと自国の事情を考えてほしい」
「生活を守ってほしい」
「急激な変化についていけない」
と感じている人もいる。
この違いを見落とすと、選挙結果の意味を読み違えてしまう。
■ 私が「転機」だと思った瞬間
今回の選挙を振り返って、私が一番印象に残ったのは、特定の政党の勝利ではない。
「EUを当然のものとして受け入れる時代が終わりつつある」
という感覚だった。
EUは長い間、「ヨーロッパ統合」という大きな理想を掲げてきた。
国境を越える。
人が移動する。
市場を一つにする。
平和を守る。
共通の価値観をつくる。
それは確かに歴史的な成功だった。
しかし、その成功が永遠に続く保証はない。
いまの有権者が求めているのは、
「もっとヨーロッパを」
だけではない。
場合によっては、
「まず自分たちの生活を守ってほしい」
なのだ。
この二つをどう両立させるのか。
そこにEUの次の課題がある。
■ 「転機」だけれど、「終わり」ではない
では、欧州議会選挙はEUの転機だったのか。
私は、
「Yes。ただし、EUの終わりという意味ではない」
と答えたい。
2024年の選挙で、中道・親EU勢力は依然として欧州議会の中心にいる。
一方で、右派・ポピュリスト勢力の存在感は無視できないところまで大きくなった。
欧州議会自身の分析でも、2024年の選挙は急進右派の台頭や、EU統合にとって転換点なのかという問題を浮き彫りにしたと整理されている。
だから私は、この選挙を「EU崩壊の始まり」とは呼びたくない。
むしろ、
EUが自分自身を作り直さなければならない時代に入った。
そう考えたい。
■ 投票所を出るとき、EUの旗が少し違って見えた
投票所を出る。
さっきまで気に留めなかったEUの旗が、妙に目に入る。
青い背景。
12個の星。
それだけのシンプルな旗だ。
でも、その一つ一つの星の向こうには、違う国があり、違う歴史があり、違う不満があり、違う未来への期待がある。
「一つのヨーロッパ」と言っても、現実にはそんなに簡単ではない。
それでも、彼らは同じ議会を選び、同じ市場を共有し、同じ危機に直面している。
だからこそ、この選挙には意味がある。
EUは今、二つの方向から引っ張られている。
一つは、
「もっと統合されたヨーロッパ」
もう一つは、
「もっと自国を優先するヨーロッパ」
その間で、EUはどこへ向かうのか。
私は投票所を後にしながら、そんなことを考えた。
欧州議会選挙は、EUを終わらせる選挙ではなかった。
しかし、
「EUはこれまで通りでいいのか?」
と、ヨーロッパ全体に問いを突きつけた選挙だった。
そして、この問いへの答えは、まだ出ていない。
だからこそ私は、この選挙を「転機」と呼びたい。
ヨーロッパは、変わった。
ただし、その変化は一夜にして起きた革命ではない。
投票所へ向かう一人ひとりの足音が、少しずつ政治の方向を変えている。
その音が、私には以前よりはっきり聞こえた。
選挙関連情報 May 29, 2019 at 10:07AM
【外部リンク】
5年に一度の欧州議会選挙が23-26日に行われました。 ... この結果、広く薄い知識よりも狭く深いものをもとめ、それが人々の行動規範にも表れてきていない ...
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